「サイトにAIチャットボットを入れて、問い合わせ対応を自動化しませんか」という提案を受けた。月額の見積をもらったが、自社の問い合わせがそもそも何件あるかを把握していない。 この記事は、その判断をするためのものです。数えるのは2つ。件数と、内容の内訳です。30分で判定できます。
先に書いておくと、当社はチャットボットを売っていない
判断材料として読んでもらうために、立場を先に明かします。
当社はチャットボットを扱っていません。 ですからこの記事は、どちらかといえば「入れない方がいい」側に寄っています。読むときはその前提で読んでください。
一方、チャットボットの解説記事のほとんどは、それを売っている会社が書いています。そちらも同じように偏っています。両方読んで、自社の数字で決めるのが一番確実です。
数える2つの数字
判定に使うのは2つだけです。
①月間の問い合わせ件数
フォーム、電話、担当者宛のメールを合わせた件数です。経路ごとに分けて数える必要があります。 数え方はホームページから何件来ているか、自社で数えられるようにするに書きました。
件数が出たら、今かかっている対応コストを計算します。計算式は、チャットボットの費用対効果を扱ったリスキリングナビの記事にあるものがそのまま使えます。
> 月間の問い合わせ件数 × 1件あたりの対応時間 × 人件費
例を出します。月15件、1件あたり10分、時給換算2,500円の社員が対応しているとします。
15件 × 10分 = 150分(2.5時間)。2.5時間 × 2,500円 = 月6,250円。
提示された月額がこれを超えていれば、件数の面では合いません。同じ記事も「件数が少なく人手で回っているなら向かない」と書いています。
②内容の内訳(同じ質問が何割か)
件数だけでは決まりません。むしろこちらが本題です。
先月の問い合わせを全部開いて、同じ質問が何件あったかを数えてください。分類は3つで足ります。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 定型 | 営業時間、所在地、送料、支払条件など、答えが1つに決まる |
| 半定型 | 「◯◯は扱っていますか」など、対応範囲を見れば答えられる |
| 個別 | 寸法・数量・納期・価格の判断が必要 |
定型が7割を超えていなければ、チャットボットは効きません。
請負業の問い合わせは、FAQ化できない
チャットボットの解説記事は、どれも「まずFAQ対応から始めましょう」と書きます。一次対応をFAQで受けて、残りを人に回す、という設計です。
正しい設計です。ただし前提があります。FAQにできる質問が自社にあること。
答えが定型にならない質問の例
加工や工事を請け負う会社に来る問い合わせは、たいていこの形です。
- 「SUS304の板厚3mm、この図面の形状で20個、来週金曜までにできますか」
- 「既設の配管を残したまま、空調だけ入れ替えられますか」
- 「このロットだといくらになりますか」
どれも答えが1つに決まりません。 図面を見て、設備の空き状況を見て、材料の在庫を見て、はじめて答えが出ます。定型の答えを用意することができない。
チャットボットが答えられる質問と、答えられない質問
| 答えられる | 答えられない |
|---|---|
| 営業時間、定休日 | この納期で間に合うか |
| 所在地、駐車場の有無 | この図面で作れるか |
| 対応エリア | いくらになるか |
| 扱っている材質の一覧 | 今から頼んで何日かかるか |
| 図面の送り方 | 他社より安くなるか |
左の列は、普通のページに書けば足ります。 チャットボットに聞かせる必要がありません。むしろ、ページに書いてあれば検索からも拾われます。
間違って答えたときに起きること
ここが一番のリスクです。
チャットボットが「対応可能です」と答えて、実際には設備が対応していなかった。相手は対応できる前提で社内の段取りを進めます。後から断ると、その1件を失うだけでなく、次から声がかかりません。
AIは分からないときに黙らず、もっともらしい答えを返します。BtoBの取引では、1件の誤答が取引そのものを終わらせることがあります。件数の計算より、この危険を先に置いてください。
チャットボットより先に効く3つ
いずれも月額が増えません。
①対応範囲の数字をサイトに書く
材質、寸法の上限、ロット、納期、保有設備。これを1ページに書くと、「できますか」の問い合わせが減ります。
減るのは失注ではありません。受けられない相談が減るだけです。 そして残る問い合わせは、最初から具体的な相談になります。書き出す項目はBtoBの会社サイトに書くのは、強みではなく対応範囲の数字にまとめました。
自動化より先にこれをやる理由は単純で、問い合わせの件数を減らすより、1件あたりの往復を減らす方が効くからです。
②よく聞かれる質問を、普通のページに書く
定型の質問は、FAQページに並べるだけで足ります。動く仕組みは要りません。 静的なページなので、月額もかかりません。
何を並べるかは、先に数えた内訳の「定型」に入った質問がそのまま使えます。
③問い合わせフォームの項目を増やす
今のフォームが「お名前・会社名・メール・お問い合わせ内容」だけなら、項目を足してください。
- 材質・品名
- 数量
- 希望納期
- 図面の添付欄
これだけで、一次対応の往復が1回か2回減ります。 月15件なら、往復1回分で月30分から1時間が戻ります。フォームの項目を増やす作業は、チャットボットの初期費用より安く済みます。
図面を受け取る設定(対応する拡張子、容量の上限、保存先)は見積の往復を減らす、図面を受け取れるフォームにするに分けて書きました。
ただし正直に書くと、項目を増やすと送信率は下がります。 入力が面倒になるからです。図面の添付を必須にすると、図面がまだ無い段階の相談が来なくなる。必須にするか任意にするかは、自社がどの段階の相談を受けたいかで決めてください。
入れる価値がある条件
全否定はしません。次に当てはまるなら、チャットボットは効きます。
- 月100件以上の問い合わせがある。 対応コストの計算で月額を上回る
- 定型の質問が7割を超えている。 通販、サービス業、店舗を持つ会社に多い
- 営業時間外の問い合わせが多い。 翌営業日まで待たせている実態がある
- 同じ担当者1人に全部集まっていて、その人が回らなくなっている
このうち2つ以上に当てはまるなら、検討する段階です。その場合も、完全に無人にする前提で入れないでください。 答えられない質問を人に渡す切り替えを、最初から設計する必要があります。
それでも判断が付かないとき
順番はこうです。
- 先月の問い合わせを全部開いて、件数を数える
- 定型・半定型・個別に分ける
- 定型が7割未満なら、この記事の「先に効く3つ」に進む
- 7割以上で、かつ月100件以上なら、提案を検討する
- 判断が付かないなら、2か月分を数えてから決める
5番を勧める理由は、1か月だけでは繁忙期か閑散期かが分からないからです。提案に返事の期限があるなら、その期限を延ばしてもらってください。急ぐ理由のある提案は、こちら側にはありません。
まとめ
先月の問い合わせを全部開いて、同じ質問が何件あったかを数えてください。定型が7割を超えていないなら、今回の提案は見送って差し支えありません。
当社はチャットボットを扱いませんが、問い合わせの計測と、対応範囲のページづくりは対応範囲に入れています。会社名とサイトのURLをお知らせください。
この記事を書いた人
しがビズ(株式会社トリプルエッグ)
滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。成果を保証しない代わりに、確認する指標を決めて実施前後を比較しています(よくある質問)。
出典
- リスキリングナビ「AIチャットボット導入の費用対効果とは?中小企業の導入メリットと補助金ガイド」(対応コストの計算式)