「社内の書類をAIに読ませて、聞けば答えるようにしませんか」という提案を受けた。月額の見積をもらったが、自社の書類がその形になっているのか分からない。そもそもどこに何があるか把握していない。 この記事は、契約の返事を保留している状態で読まれることを想定しています。 判定は自社でできます。費用はかかりません。よく聞かれる質問10個分に絞れば、2時間ほどで終わります。 先に、最も多い誤解を片付けます。
スキャンしたPDFは、そのままでは読ませられない
複合機で紙をPDFにしたファイルは、画像です。 見た目は文字が並んでいますが、データとしては写真と同じで、文字が入っていません。
だからファイル名でしか探せません。内容で検索しても出てこない。AIに渡しても、そのままでは中身を読めません。
PDFを開いて、文字を選択できるかを見る
判定は10秒で終わります。
- 対象のPDFを開く
- 本文の一部をマウスでなぞる
- 文字が青く反転して選択できれば、文字が入っている
- 反転しない、または枠ごと選択される場合は、画像
もう1つ確かめ方があります。PDFを開いた状態で検索(⌘F または Ctrl+F)を押し、本文にある単語を入れる。見つからなければ画像です。
文字が取れていない場合に必要になる作業
画像のPDFから文字を取り出すには、文字認識(OCR)をかけます。最近の複合機には「検索可能なPDF」で保存する設定があり、そこを変えるだけで今後のスキャンは文字が入るようになります。設定を見直す方が、過去分を一括処理するより先です。
過去分については、全部やる必要はありません。後述のとおり、よく使うものだけで足ります。
社内の文書は5つの状態に分かれる
棚卸しの枠として、この5つで分類してください。
| 状態 | AIに読ませられるか | 必要な作業 |
|---|---|---|
| ①紙だけ | できない | スキャンして文字を取る |
| ②スキャンしたPDF(画像) | できない | 文字認識をかける |
| ③WordやExcel | できる | ほぼそのまま渡せる |
| ④個人のパソコンの中 | 存在が共有されていない | 共有の場所へ移す |
| ⑤人の頭の中 | できない | 書き起こす |
①紙だけ
契約書、検査記録、手書きの作業手順。キャビネットにあるものです。
これはスキャンから始まります。ただし全部をスキャンする計画は、たいてい途中で止まります。必要になったものだけスキャンする、で十分です。
②スキャンしたPDF(画像)
一番多いのがこれです。そして厄介なのは、ファイル名が IMG_0421.pdf のように連番になっていること。 内容も分からず、中身も検索できないので、実質的に存在していないのと同じ状態です。
③WordやExcel
そのまま渡せます。ただしExcelには弱点があります。セルを結合した表、シートが10枚以上あるブック、同じシートに複数の表が並んでいるものは、AIが構造を取り違えることがあります。
すぐに直す必要はありません。読ませてみて、答えがずれたら、その表だけを整える順序でかまいません。
④個人のパソコンの中
実務で最も多く見る状態がこれです。 一番使われている手順書が、担当者のパソコンのデスクトップにしかない。共有フォルダにある版は古い。
この状態の問題は、AIに読ませられないことではなく、担当者が休むと誰も答えられないことです。 AIの話の前に、移す価値があります。
⑤人の頭の中
文書になっていない情報が、実際には一番多い。「この取引先は納期を1日多めに伝える」「この材質は夏場に反りが出る」。
ここを先に書き起こしてください。 他の4つは形式を変える作業ですが、これだけは中身を作る作業です。誰かが辞めると消えます。書き起こし方は会議の議事録をAIに任せる前に、決めておく4つのことの進め方が使えます。本人に話してもらい、録音して、AIに整えさせる。
AIに読ませる前に、減らす
ここが、この記事で一番伝えたいところです。
「最新版」「最新版2」が並んでいると、古い版も引用される
共有フォルダを開くと、こうなっていないでしょうか。
``作業手順書.docx作業手順書_最新版.docx作業手順書_最新版2.docx作業手順書_20240301.docx作業手順書_修正版(田中).docx``
この状態でAIに読ませると、古い版の内容を答えます。 しかも、もっともらしい文章で答えるので、読んだ人は気づきません。
これが最大の事故要因です。ツールの性能とは関係ありません。5つのうちどれが正しいかを、AIは判断できません。 判断できるのは人間だけです。
残す1つを決めて、他は別フォルダへ移す
やることは単純です。
- 同じ内容のファイルを並べる
- 中身を見て、今の運用に合っているものを1つ選ぶ
- 選ばなかったものは消さずに、
_旧のような別フォルダへ移す - 残した1つのファイル名から「最新版」を外す
3番で消さないのは、後から「あの記述はどこだったか」となることがあるためです。ただし、AIに読ませる対象のフォルダからは必ず出してください。
日付と担当者を、ファイルの中に書く
ファイル名ではなく、文書の1行目に書いてください。 AIが読むのは中身なので、ファイル名の日付は答えに反映されません。
``作業手順書/最終更新 2026-09-18/管理 総務部``
この1行があるだけで、「いつ時点の情報か」を含めて答えられるようになります。
質問10個から始める手順
全社の文書を整える計画は立てないでください。当社は、よく聞かれる質問10個分だけ整えることを勧めています。理由は、全社を対象にした整理は途中で止まるからです。
- 新人が入ってから3か月で聞いてきた質問を書き出す(思い出せる分だけ)
- 電話で社外から聞かれる質問を足す
- 10個になったら止める
- 1つずつ、答えがどこにあるかを書く(フォルダ名・ファイル名・人の名前)
- 5つの状態のどれかを判定する
- ⑤(人の頭の中)だったものを先に書き起こす
- ②(画像PDF)だったものに文字認識をかける
- 同じ内容の複数版を、1つに絞る
6番が一番時間がかかります。1件30分は見てください。10個のうち3件が⑤なら、それだけで1時間半です。面倒ですが、ここを飛ばすとAIに読ませる材料がありません。
8まで終わった段階で、ツールが必要かどうかの判断ができます。
AIに答えさせてはいけない情報
棚卸しが進むと、全部読ませたくなります。次のものは対象から外してください。
- 取引先ごとに条件が違う価格・納期。答えが1つに定まらないので、AIが混ぜて答えます。混ざった答えが社外に出ると事故になります
- 人事・給与・健康診断に関する文書。入力してよい情報の範囲を超えます
- 図面や写真が答えになる質問。文字にできないので、そもそも読ませられません
1つ目が一番危ない。「A社向けの単価」と「B社向けの単価」が同じフォルダにあると、AIはどちらかを選んで答えます。どちらを選んだかは表示されません。
入れてよい情報と禁止する情報の分け方は、社員が使い始めた生成AI。先に決める3つと、後でいい6つに帳票名で書きました。
この棚卸しをしても、ツールが必要になる場合
ツールを否定する記事ではありません。次の条件に当たるなら、専用のツールを入れる価値があります。
- 対象の文書が数千件以上あり、手作業で絞れない
- 毎日新しい書類が増える(受注書、検査記録、日報)
- 社員10人以上が、それぞれ別の質問をする
このどれにも当たらないなら、月額を払う前にやることが残っています。そして、棚卸しをした後に契約した方が、ツールの効果も上がります。 整っていない文書を読ませても、答えは整いません。
まとめ
新人が入ってから3か月で聞いてきた質問を、思い出せる分だけ書き出してください。それが最初に整える10個です。10個書ければ、提案されたツールが必要かどうかの見当がつきます。
当社のAI業務診断では、業務の棚卸しから始めて、この判定と手順の作成までを行っています。時間がかかっている業務をお知らせください。
この記事を書いた人
しがビズ(株式会社トリプルエッグ)
滋賀県の中小企業向けに、会社サイトの作り直しと、生成AIの業務導入を行っています。業務の棚卸しから始める進め方はAI業務支援のページに書いています。